ヘッジファンド破綻の真相ヘッジファンドのアマランス:取引移管後の損失は7025億円 これは衝撃的な数字だが、日本ではそんなに大きく報じられていない。米銀行大手 JPモルガン・チェース(NYSE:JPM)とヘッジファンドのシタデル・インベストメント・ グループが、ヘッジファンドのアマランス・アドバイザーズのエネルギー投資資産を 買収し、難しい市場へのリスクを拡大させた。このヘッジファンドは天然ガス取引で 失敗し数十億ドルの損失を出している。JPモルガンとシタデルがこの投資を引き 取ったのは、アマランスの操業停止を防ぐためだ。今後は両社が利益と損失を 分け合うことになる。アマランスは、解約を求める投資家や追加担保を求める ブローカーからの要求に応えるため、このほかにも非エネルギー投資資産15億 ドルの売却を進めてきた。21日までに、エネルギー取引を第三者に移管し、保有 証券を売却した後の旗艦ファンドの月初来損失が約60億ドル(約7025億円)と なることを明らかにした。業務停止を免れるため資産を割安な価格で処分したこと から、損失は今週14億ドル膨らんだ。 創業者のマオウニス氏によると、アマランスは天然ガスのデリバティブ(金融 派生商品)を「大幅な損失を伴って」譲渡し、契約に基づいたデフォルト(債務 不履行)を回避するため他の資産を売却した。同氏はまた、「引き続きすべての マージンコール(追加証拠金の発生)に対応」していると述べている。 アマランスは 先週の天然ガス価格下落を受け、今週初めに資産の約50%に相当する46億 ドルを失ったことを明らかにした。年初の資産は約75億ドルだった。また、現在の 借入額は、資産1ドルに対して1.30ドルだという。これらの投資資産は転換証券、 株式などだが、多くが融資や他の投資で使用されており、割引せずに処分する のは難しい。 アマランスはエネルギー投資の処分について、この一週間いろいろな会社との 接触を開始した。情報筋によるとそれらの会社は、シティグループ、ゴールドマン・ サックス・グループなどだが合意には至らなかったという。続いて18日になると アマランスは、年初来の損失が35%になったことを明らかにし、引き続き買い 取り手を探すと発表した。シティは1998年にヘッジファンド、ロング・ターム・ キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済に協力した16銀行の1つ。LTCM事件は、 利益変動の大きい事業を嫌った当時のシティ最高経営責任者(CEO)、 サンフォード・ワイル氏を、ヘッジファンドに関して一段と慎重にさせた。パンク・ ジーゲルのアナリスト、リチャード・ボーブ氏は「シティがヘッジファンド事業に 参加しようとするならば、そこに身を投じるしかない」と話した。 ワイル氏の後を 継ぎ2003年10月に就任したチャールズ・プリンスCEOにとって、アマランスへの 出資は高成長のヘッジファンド関連業務へのさらなる進出だ。アマランスが 稼いでいる運用手数料や成果連動の運用報酬の一部もシティの収入になると みられる。 シティグループ・オルタナティブ・インベストメンツの資産は2003年末 以来、50%増えている。現在は9つのヘッジファンドグループに、170億ドルを 投資している。 アマランスは規制当局と話し合った後、投資家に対しすでに説明を終えた。ただ、 JPモルガンやシタデルなどの特定の名前はあげておらず、それ以上のコメントを 差し控えた。アマランスが20日遅く投資家にあてた書簡によると、同社の旗艦 ファンドは月初から19日までに、資産の65%を失った。現在の資産は35億ドル 未満だという。先ほどのニコラス・マオウニス氏は書簡で、エネルギー取引の ポートフォリを第三者に譲渡したことを明らかにした。これによって天然ガス取引 での損失拡大を防ぎ、「融資枠の取り消しや債権者による強制的清算のリスクを 回避できる」としている。損失を出した取引に責任を持っているブライアン・ ハンター氏に電話を試みた人がいるものの、電話に出た同僚という人物は、 ハンター氏は大変なときには「1日23時間働く」と答えたが、ハンター氏からの 電話は返ってこなかったらしい。 ハンター氏とはどんな人物なのか、気になるところだが、ここからはちょっとした あまり外には出ていない話。彼はカナダのカルガリーに住む若干32歳の若者。 アマランスに関係する投資会社のトレーディングデスクにおいてヘッドを勤めている。 昨年は、自分の思惑が当り、7ドルの買値が16ドルになる相場を当てて会社を 大儲けさせた。そして昨年は100億円を超える報酬を貰っている。100億円だ。 しかもたったの1年間で。今年も彼は好調で会社の上半期のファンドのリターンは 20%を超えている。全社の利益の78%を彼1人で稼いでいたという噂だ。彼の 会社は、多様な資産クラスに、多様な運用戦略で望み、安定したリターンを約束 するマルチステラテジーと呼ばれるスタイルのヘッジファンドを運用している。 98年に破綻したLTCMのような、資本金の何倍もの借金をして投資するような 危険な行為はしないと顧客に語り、昨年のレポートでのレバレッジはたったの4.5% しかないと報告してきた。過去の報告書を読んでも明らかなのだが、この会社の 実績の投資リスクは極めて低いものだった。しかし、この会社の実際の投資は、 ブライアン氏と言う当り屋の1人のトレーダーに会社の資産の半分以上を預け、 この6月には資本金の400%を超える大きなレバレッジをかけたリスキーな 運用だった。 彼の会社は顧客にウソはついていない。虚偽記載をしていたこともない。オプションの 売りという簿外の取引や、期末の報告書の時期にはポジションを手閉まってていた ので顧客は分からなかった。ようは、報告義務のあるときには、決まってポジションを 閉じていれば、ある一時点で区切ったバランスシートやポートフォリオにはその危険な ポジションは載ってこないのだ。ブライアン氏が好んだのは市場全体が小さな天然 ガス先物。彼のポジションだけで市場全体の10%も占めてしまい、彼の動きで天然 ガス価格が大きく上下動してきた。9月の天然ガス先物市場は7ドル台の価格が 5ドル台になると言う、相場ではありきたりの動きだった。しかし、小さな市場での 大きなレバレッジをしたものだから、彼の50億ドルの元本で60億ドルの損失を 出してしまった。これがこの物語の顛末だったよう。 JPモルガンとシタデルは、アマランスに支払うより、むしろアマランスが取引を するために担保として差し出していた最大20億ドルの担保を受け取ることになる かもしれない。アマランスが担保、あるいは、証拠金を取り戻せるかどうかは 分からないといわれる。アマランスの損失は合計でおよそ50億-60億ドルになると みられる。JPモルガンはアマランスの先物取引の決済を担当しており、アマランスが 義務を果たせないときには、代行して義務を遂行していた。情報筋の話では、 アマランスはJPモルガンの追証の請求にはすべて応じてきたという。 問題の投資資産のリスクは依然として高い。評価額はさらに落ちるかもしれない からだ。アマランスの天然ガスの先物取引契約はさらに悪化した。JPモルガンは 既にその一部を今週売却したという。JPモルガンのエネルギー取引の責任者は、 2005年にモルガン・スタンレーを退社したジョージ・テーラー氏(35)だ。JPモルガンの ジェームズ・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、株式・債券トレーディング業務の 利益を伸ばすために、この動きを支持した。シタデルはシカゴに本社を置きケン・ グリッフィン氏が経営する、運用資産およそ120億ドルのヘッジファンド。昨年の ハリケーンでは、エネルギー取引で巨額損失を出したが今年は、同ファンドは 12%の上昇。アマランスの経営幹部でこの取引をしているチャールズ・ ウィンクラー氏は、元のシタデル経営幹部でグリッフィン氏とは親密だ。 アマランスがどれくらいの圧力を受けているかが伺えるものがある。ジュネーブにある プライベート・バンクのユニオン・バンケール・プリベ(UBP)の昨日開催された会議だ。 UBPはアマランスなどのヘッジファンドにおよそ290億ドルを投資しているが、 投資家に対して、アマランスに保有している財産をなるべく早く清算したいと考えて いると話した。さらにアマランスはファンドの全体を清算する可能性があるとの見方を 示した。UBPの幹部は、アマランスの昨年と今年のほとんどの部分の成績の80%は エネルギー投資でもたらされたものだと述べ、他の取引などはそれほどなかった ことを示唆した。アマランスが4月におよそ12%増加したと報告したが、投資家に 対する説明ではこのうちの2%がエネルギーによるものだったという。 たいがいのヘッジファンドと同様、資産売却を強いられることによって資産の評価額が 悪化することを避けるため、解約に制限を設けている。ある投資家は、月当たりの 解約額は最大8%とすることに合意したという。過去のヘッジファンドの破綻では、 そのようなルールを強制することは困難だった。 広義の同業者であるこのヘッジファンド、この会社の今後の動きに注目しておきたい。 ジャンル別一覧
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